1億ユーザー越えのソニーのアニメ配信サービス『Crunchyroll』から読み解く世界戦略
日本はドラゴンボールやワンピース、呪術廻戦のような世界的なヒットコンテンツを輩出しながら、漫画ではWebtoon Entertainmentやピッコマ、アニメではNetflixやAmazon Primeのようなプラットフォーマーに、主要プレイヤーの座を奪われています。
コンテンツの勝負で勝ちつつも、ディストリビューションやマネタイズでは韓国や北米に敗北したと言われて久しいですが、そんな中息を吐き続けているのが、ソニーのグローバルNo.1アニメ配信サービス『Crunchyroll』です。
本日は『Crunchyroll』のNetflixやAmazon Prime等に対する優位性や戦略の違い、ソニーグループ全体のアニメ事業の戦略について考察していきます。
1.2億人を抱えるグローバルNo.1のアニメ配信サービス
Crunchyrollはソニーグループ傘下でアニメに特化したストリーミングを行う、アニメ版のNetflixとでも言うべきサービスです。
200以上の国と地域に1,300以上のアニメ作品・46,000以上のエピソードを配信。Netflix等の他のストーリミングとの比較では、アニメに絞ることでより良い体験をユーザーに提供していることが特徴です。
例えば鬼滅の刃やワンピースのようなメジャー作品から、マイナー作品まで幅広いコンテンツに対応しつつ、TVとの同時放映作品も多くなっています。また、吹き替え・字幕が18以上の言語に対応し、広告付きの無料プランが用意されているため、幅広い国の幅広いユーザーがアニメを楽しめます。
コミュニティ機能やグッズEC等の独自機能も備え、ハリウッドのレッドカーペットに相当するアニメの一大祭典『アニメアワード』も世界中からセレブ・アニメファンを招待して開催。ストリーミングに留まらずアニメを360度楽しめるサービスとなっています。
App Storeより
そんなアニメ業界の救世主の様なサービスですが、実は海賊版のアニメ配信サービスから事業をスタートしています。しかし、日本での公開との同時の放送というユーザーが求める体験を提供するために、正規のストリーミングのみに舵を切り成長。
Netflixの普及やコロナ禍により、アニメが世界中でメジャーのカルチャーに成長したことで、ユーザー数も21年時点で1.2億人、有料の課金ユーザーも1,500万人という、巨大サービスとなっています。
2018年にAT&Tの傘下に入りますがソニーが21年に11.7億ドルで買収し傘下に収めます。この買収はソニーにとってどのような意味があったのでしょうか。
Crunchyrollはソニーのアニメ戦略最後のピース?
Crunchyroll買収の位置付け
ソニーはエレキから金融に事業を広げ、現在はPlayStationや音楽、映画等のエンターテイメント事業が売上の60%を占める、日本が世界に誇るメディアコングロマリットです。
本エントリのテーマであるアニメ領域一つとっても非常に幅広い事業を展開しており、日本・グローバルでアニメ領域のメインプレイヤーであると言えます。
グループ傘下には、大ヒットした鬼滅の刃のアニメ・映画の企画制作を行なったことで有名な『アニプレックス』、17年に1.5億ドルで買収した米国トップのアニメ制作・配信会社の『Funimation』、アニメ専門放送局の『アニマックス』等を保有。
古くはドラゴンボールZから、進撃の巨人、君の名は、鬼滅の刃などグローバルで大ヒットした超強力なIPを保有していましたが、ファニメーションのアニメ特化のストリーミングはNetflixに大きく引き離され、プラットフォームの競争ではニッチトップに留まっていました。
しかし、Crunchyrollの買収によりメーカーが小売企業を買収するような製販一体の垂直統合体制を確立。ソニーとしては超強力なディストリビューションチャネルを手に入れられ、CrunchyrollとしてはFunimationやアニプレックスが保有する人気コンテンツの供給が受けられることで、プラットフォームの魅力が高まる、正に理想的な買収と言えます。
SONY 2023年度経営方針説明会プレゼンテーション資料
ストリーミング競争の定石から外れるソニーの戦略
ストリーミングサービスのビジネスモデルは配信権の保有者に費用を支払って配信を行い、プラットフォームに登録するユーザーからのサブスク費用の徴収や広告で、マネタイズを行なっていくモデルです。
ユーザーは各サービスのUIやブランドイメージではなく、プラットフォームで楽しめる作品をベースに購買を行うため如何に人気作品を取り揃え、どのようにそれを自社で独占するか?というのが、競争上の重要なポイントであると言えます。
Netflixは年間数兆円の費用を投じた自社オリジナルコンテンツの制作や、韓国の『ドラゴンスタジオ』との提携を通じた韓国人気ドラマの独占配信、Amazonは映画スタジオMGMの84.5億ドル買収や音楽やECの配送とのバンドル戦略を取るなど、各社が独占コンテンツの保有に向けた熾烈な競争を展開しています。
しかし、ソニーは現在もグループが保有する進撃の巨人や大ヒットした鬼滅の刃、ヒロアカ等の放映を他社のストリーミングサービスにも開放続けています。Amazon Primeに至っては、Crunchyrollの全作品を視聴できるオプションチャンネルまで用意されており、定石であるはずのコンテンツの独占を行なっていません。
今や日本のアニメはその半分が海外で消費されるグローバルのメジャーコンテンツとなっており、自社アニメをCrunchyroll独占配信にすることで、アニメ配信のトッププレイヤーとして、Disney+のいような姿を目指すことも可能かもしれません。なぜソニーはこのようなオープンな戦略を取るのでしょうか?
SONY 2021年度経営方針説明会プレゼンテーション資料