マネックス買収後に時価75倍。機関投資家・基盤外販に舵を切るコインチェックの第三ステージ
コインチェックといえば国内の暗号資産販売アプリとして広く知られています。ところが直近のNASDAQ上場後には海外の暗号資産関連事業者の買収を次々進め、グループCEOにも買収した機関投資家向け事業者3iQ CEOが就任。
2026年3月期(FY2026)の決算を見ると、実質的な売上収益(Adjusted Revenue)131億円のうち、機関投資家向けカストディ・プライムブローカレッジ、ステーキング、といった非取引収益が約21.4%を占めるまでに拡大しています。
本稿では、NEM流出事件というどん底からマネックスの傘下に入り、NASDAQ上場を経て第三ステージに突入したコインチェックグループの、戦略とビジネスモデルを整理していきます。
36億円→2,700億円。マネックスが仕掛けた「75倍ホームラン」
まず同社がNASDAQに上場を果たすまでの経緯について振り返ります。
コインチェックの出発点は、暗号資産とは無関係のサービスです。2012年8月、東京工業大学を中退した和田晃一良氏(当時21歳)と大塚雄介氏が「レジュプレス株式会社」を渋谷で設立。
ユーザー投稿型ストーリーメディア「STORYS.JP」を立ち上げます。同メディアからは「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應に現役合格した話(ビリギャル)」が生まれ、累計100万部超のヒット作となりました。(この初代CEOがCoralのJemsさんで、メンバーにはパルワールドの溝部さんも)
しかし和田氏の関心は次第に暗号資産へと向かいます。2014年8月、VCからの出資を断られ、資金が底をつく寸前の状態で「Coincheck」のサービスを開始。「初心者でも使いやすいUI/UX」と「他社より多い取り扱い銘柄」を武器に、じわじわとユーザー数を伸ばしていきます。2015年3月には月間取引高1億円を突破し、ここから市場が動き始めます。
転機は2017年の暗号資産バブルです。ビットコインが年間で約20倍に高騰する中、コインチェックの月間取引高は推計約2兆円、年間では約4兆円規模にまで膨らみます。
2017年3月には社名を「コインチェック株式会社」に変更し、STORYS.JPを事業譲渡して暗号資産一本に集中。「暗号資産といえばコインチェック」というブランドポジションが確立されていきました。
そしてその絶頂が、一瞬にして崩れます。
2018年1月26日、外部からの不正アクセスによりNEMが約580億円流出。当時史上最大規模の暗号資産盗難でした。
被害ユーザーは約26万人に上り、コインチェックは自己資金から約460億円を全額補償します(1NEM=88.549円)。金融庁から業務改善命令を2度受け、暗号資産交換業の登録申請も保留状態に。バブル期に積み上げた内部留保があったからこそ補償できたものの、企業としての存続は危ぶまれる状況に追い込まれます。
存続すら危ぶまれる状態だったところに、マネックスグループが手を挙げ36億円でスピード買収。
そこから4年、コインチェックを中心とするクリプトセグメントはマネックスグループの収益の31.8%、利益ベースでは約52.6%を稼ぎ出すまでに成長します(2022年3月期)。ネット証券の老舗が子会社の暗号資産事業に利益の半分以上を依存するのは異常事態といえます。

2022年 第4四半期 決算説明会資料
そして、2024年12月11日、コインチェックグループはDe-SPAC方式でオランダのThunder Bridge Capital Partners IV, Inc.と統合する形でNASDAQに上場(ティッカー:CNCK)。上場時の時価総額は約2,700億円となりました。
インシデント後というリスクが顕在化したタイミングで36億円という底値で買収し、それが約8年で市況の回復と共に75倍の2,700億円に。そしてこの間、マネックスはもう一手を打ちます。
2023年10月、中核事業だったマネックス証券の49%をNTTドコモに約460億円で売却。NISAにより市場は伸びているものの、資本力で差をつけられた楽天やSBIが価格競争を仕掛けてきたタイミングで、資本力があるが金融が弱いドコモという、時期・相手共に絶妙な取引と言えます。
この高いと考えれば祖業も連結PLから切り離し、インシデント後の極めて買いづらいタイミングであってもディスカウントが見えればリスク資産も買収する一連のポートフォリオ戦略からは、元Solomon/GSのトレーダーである松本氏のトレーダー的発想が垣間見えます。
ネット証券と根本的に異なる暗号資産販売所のビジネスモデル
コインチェックの主力事業である「暗号資産の販売所」は、取引の仲介を行うネット証券とは、自社が取引の主体(プリンシパル)である点で根本的に異なります。
海外旅行前に空港の両替所で円をドルやウォンに換えると、その瞬間の市場レートに手数料(スプレッド)が乗ったレートで交換することになります。
コインチェックも同じ原理で、市場レートにスプレッドを乗せた価格で、自社が仕入れた暗号資産をユーザーに販売するビジネスモデルを取ります。
「総収益」から仕入れ値を除いた実態としての収益である「スプレッド収入」= Adjusted RevenueはFY2026で130億7,100万円(8,200万ドル)となっており、暗号資産販売ビジネスはこのうち78.6%といまだに同社の収益の柱です。

CCG Form 20-F: Annual and transition report of foreign private issuersより作成
国内での競争力は高く、認証済みユーザー数は253万人(2026年3月末、前年比+10%)、顧客資産は7,300億円。bitFlyerと首位を争う国内2位のポジションを維持。
このモデルは極めてハイリスクハイリターンなビジネスで、暗号資産の値上がりと共に取引量が増えれば、仕入れ値と販売値のスプレッドが拡大し大きく収益が上がる特徴を持ちます。
因みにAdjusted Revenue131億円はこの市況が冷え込んだこのタイミングのスナップショットであり、最盛期の2022年にはその2.2倍の286億円、利益ベースでも138.7億円の利益を創出していました。(22年はマネックスのクリプトアセットセグメント実績である点に注意)
しかし一方で、不況時に取引量が減ると販売収益が減少し、仕入れ値からの下落分の評価損が拡大し大きく利益が減少。上場企業として安定した収益成長を求める投資家との間で、このボラティリティは常に課題になります。
さらに2026年6月、SBIホールディングスが国内3位のビットバンクを467億円で買収すると発表。SBI VCトレードと合算した口座数はコインチェックを上回り、ネット証券のように投資を加速してくることを考えると、競争環境は一段と厳しく資本力による消耗戦が展開されるシナリオも考えられます。
こうした中Coincheck Groupは市況への依存を下げ、粘着性の高い収益源を積み上げる収益源の多様化と、自社の広告投資に頼らない販売手数料の創出を進めています。前述のようにこの非取引収益が約21.4%強を占めるまでに拡大。
海外の暗号資産事業者の買収も絡めて推進されるこの戦略とビジネスは、一体どのようなものなのでしょうか?
機関投資家向けビジネス:非取引収益の設計図
こうした構造的課題に対し、コインチェックが進める戦略は大きく二つの軸に分かれます。
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