『大切なのは死なない範囲でのトライ数最大化』yutori副社長に聞くブランドグロースのセンターピン

yutoriのブランド立ち上げの仕組みと、出店、買収、提携戦略等幅広いトピックにわたりインタビューを実施
スズキ 2025.08.02
誰でも

アパレル業界最年少での上場を実現した後、元AKB48の小嶋陽菜氏率いるheart relation社を買収し、今最も注目されるアパレル企業の一社であるyutori。

社内での新規立ち上げ、M&A、提携などで次々にブランド数を増やし、今やグループの総ブランド数は38まで拡大。

本日はそんなyutori社の副社長を務める瀬之口氏に、同社のブランドグロースのセンターピン、出店・買収戦略等幅広いトピックについてお話をお伺いしてきました。

同社の今後のグロースを考えていく上で必見の内容となってますので是非最後までご覧ください。

〈Profile〉瀬之口 和磨
取締役副社長 /co-founder

2016年大学在学中に広告代理店にてwebメディアの新規立ち上げ・広告運用業務等に従事。 2018年大学の同級生と株式会社yutori創業、6月株式会社yutori取締役に就任、23年取締役副社長就任。ZOZOへのハーフM&A、東証グロース市場へ上場、heart relation社のM&A等コーポレート、ブランドの全国店舗展開、海外展開を主導。 24年8月台湾子会社 悠特莉股份有限公司 董事長兼總經理 兼任。

*以下略敬称

yutori社内での役割分担

ーーーyutori入社のきっかけについて教えてください。

私は大学卒業後、1年間フリーランスで活動した後、大学の同級生三人でyutoriを立ち上げました。

CEOの片石、友人がCFO、私がCOOという形でスタートしました。

私は元々片石とは面識がなく創業メンバーの一人である友人が繋いでくれたのですが、この友人が半年で辞めてしまい、元々面識のなかった私と片石の2人が残りました。

CFOの友人が辞めてしまってからは資金調達等含めたCFOロールも引き継ぐこととなりCOO兼CFOの役割となっており、上場直前のタイミングで実態と役職を合わせるために現在の副社長に肩書きを変更しました。

ーーー副社長である瀬之口さんと、共同創業者である片石さんの役割分担はどのように行われているのでしょうか?

非常に抽象的に言うと、新規ブランドの立ち上げやブランド作りといった「ソフト」の部分を片石が、組織設計や人事設計といった「ハード」の部分を私が担当しています。

ゆとらない日々 アパレル企業の裏側より

ゆとらない日々 アパレル企業の裏側より

創業初期の頃は、片石が「何を作るか」というブランド部分を、私が「どうやって作って届けるか」というロジスティクス、経理財務、資材調達など、裏側部分を担当していました。

しかし、人が増えてきた現在では役割が変化しています。現在は私が持っているコーポレート業務は全社の予算管理とM&Aのみで、IRなども含めたコーポレート全般は執行役員の桐山が担当しています。

ビジネスサイドでは、海外展開と国内の店舗展開を担当しています。全国の商業施設との新規出店交渉や200名近くの店舗組織の設計を主に担当しています。

再現性の高いブランドグロースを実現する『トライ数最大化』の仕組み

ーーーyutoriが継続的にヒットブランドを立ち上げられる強さの源泉はどこにあるのでしょうか?

ヒットの確率を高めるための努力はもちろん重要ですが、個人的には「死ななきゃいつかは当たる」という考え方を大事にしています。

どんな天才でも100%ヒットを当てることは不可能です。しかし、10本のうち例え2本しか当たらなかったとしても、打席に立ち続けることができればそのうち当たりは必ず出ます。

例えば、「Yリーグ」というyutoriのブランド管理の仕組みでは、新規のブランド立ち上げ時の初期投資額と撤退ラインを決めています。

これは成長の再現性はもちろんですが、死なないための規律という側面も強く持っています。このように会社が死なない範囲でのトライ数の最大化に取り組み続けたことで、いくつかホームランが出て大きく伸びてくれました。

事業計画及び成長可能性に関する事項

事業計画及び成長可能性に関する事項

ーーー「死なない範囲でのトライ数の最大化」の具体的な仕組みについてもう少し詳しく教えてください

大きく分けて二つあります。一つ目は、「挑戦をしやすくすること」。基本的に弊社では社員からのボトムアップの起案でブランドを立ち上げています。

具体的には、半期に1回、ブランドプレゼンテーション大会を行っており、社員からのチャレンジを促し打席に立つ機会を多く作っています。

二つ目は先ほどの投資額の話とも被りますが、低コストでスモールスタートできるようにしています。

新規ブランドは基本的にオンラインのD2C販売から始め、いきなり店舗は作りません。

オンライン販売であれば、Shopifyでページを作って初期在庫分を作るだけで済み、販売チャネルもSNSを活用するため投資が小さくすみ、リスクを抑えることができます。

ブランドとして安定し売上が月2,000万円程度になってから初めて、リスクを負ってグロースのために店舗を活用します。

これにより、試行回数を最大化し、かつ初期投資を極めて抑えることが可能になります。うまくいけば良いですし、失敗してもダメージが少ない設計です。

ーーー半期に1回のブランドプレゼン大会では、どれくらいの数の企画が提案されるのですか?

実際にプレゼンまで至るのは10人くらいですね。

プレゼンターは社員だけでなく、契約社員やアルバイト、新卒のメンバーまで、職種・雇用形態に関わらず全員が参加できます。全員で投票を行い、選ばれたブランドが実際に立ち上がります。

この制度は、服に限らずやりたいことなら何でも提案でき、食器やインテリアブランドなんかも起案されたりします。

スモールスタートでうまくいけば伸ばし、ダメなら次のトライへ移ります。良くも悪くもブランドを作ることを重く考えず、「提案するのが当たり前」という文化が根付いています。

超準備して一発勝負という形式だと、失敗した時の精神的ダメージが大きくなりますが、yutoriでは「超ライトに始めて3ヶ月で作る」という感覚なので、期待値を下げることで多くの挑戦を促しています。

前回のブランドプレゼン大会

前回のブランドプレゼン大会

ーーー普通の大企業でも似たような新規事業の提案制度は多くありますがあまり上手くいってる話を聞きません。yutoriではなぜこれほど多くの社員が積極的に提案するのでしょうか?

これは弊社のカルチャーが大きく影響していると思います。社員はファッション好きが多く、自分の好きなことややりたいことを素直に言える環境と雰囲気があります。

誰もそれを否定しないシンプルな社風が、若者の熱意や熱量をそのまま形にできる文化を生み出しているのだと思います。

ただ、正直なところ、会社の規模の問題も大きいと考えています。大企業で新規事業が立ち上がらないのは、彼らが見ている金額規模が違うからです。

売上数千億円の企業は新規事業でも年間100億円規模を目指す必要がありますが、年間100億円の事業案を出せる人はそう多くありません。

一方、年間1億円規模の新規ブランドであれば「できるかも」と思い発案しやすいと思います。

現在のyutoriは年商100億円水準まできており、この規模になると新規事業の目線感として数年後に10億円くらいの売上規模が必要になりますが、それを達成するのはなかなか難しくなってきています。

そのため、現在はブランドプレゼン大会は以前ほど頻繁には開催できていません。今後はこの制度をどうアップデートしていくかが課題となると考えています。

ブランドグロースに重要なのは『覚悟』

ーーー人の採用や育成において大事にしている考え方はありますか?

yutoriには、いわゆる「総合職」のような人材はほとんどおらず、「特化型」「専門職」の人材しかいません。私たちは、尖った能力を持つ人材だけを集め、それぞれの強みを組み合わせることで、会社全体でバランスを取り、事業を伸ばしています。

これは「苦手なことはやらなくていい、得意なことだけをやろう」という考え方に起因するものです。

例えばブランド立ち上げ初期は一人がブランド運営にまつわることをほぼ全てやっていたのですが、商品企画が得意な子は商品情報の入力ミスが多かったりしました。、商品の企画に関してはハイパフォーマンスだが、情報入力等オペレーショナルな業務はすごく苦手、これは逆も然りで企画は苦手だが、素早く正確にオペレーションを確実にこなすことができる、という子もいました。

こういった経験から、苦手なことを平均点までやらせようとするのではなく、得意なことだけに集中できる職務設計をすることで、それぞれのプロフェッショナルが最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしています。

言ってしまえば私と片石の関係性もそうで、片石はクリエイティブや商品プロデュースに特化し、私は構造設計の部分に特化しています。

ーーーブランド数の増加に伴い、管理上の課題はありますか?また、それに対してどのように対応していますか?

やはり採算が悪くなってきた・伸び悩んできたブランドをどうするか、という点が課題としてあります。

会社のサイズが大きくなってきたことで売上はそこまで大きくなく、誰が担当しているのか不明確になってしまうブランドが出てきてしまっています。

こういったブランドは黒字なので撤退をすることはありませんが、月商1,000万円くらいで伸び悩んでしまい3,000万円~4,000万円といった今後の成長が中々見えてきません。

これに対しては、事業部の細分化・分社化することによってそれぞれの責任範囲を再定義し対応しています。

事業計画及び成長可能性に関する事項

事業計画及び成長可能性に関する事項

ーーー伸びるブランドは何が違うのでしょうか

もちろんターゲットや市場にフィットしたブランドか、という前提はありますが結局は担当している「人」に尽きるかなと思います。伸びているブランドの担当者はブランドがうまくいかなくなった時に「私も死ぬ」くらいの覚悟を持って取り組んでいます

ブランドは一度ローンチしたら終わりではありません。毎月新商品を出し、ユーザーの反応や市場のトレンドを見ながら細かくチューニングしていく作業が不可欠です。毎日細かくモニタリングしつつ、少しずつ改善し、理想に近づけていくという非常に細かい地味で大変な作業の連続です。

この作業に没頭し、徹底的にお客様を見ている人がいないと、ブランドは改善せず、成長できません。これを自分ごととして没頭して徹底的にやり切れているかが、ブランドを伸ばす上で非常に重要です。

ゆとらない日々 アパレル企業の裏側より

ゆとらない日々 アパレル企業の裏側より

D2C→リアル店舗の出店戦略

ーーー既に46店舗を出店し、店舗売上比率も39%と高まっていることに驚きました。店舗出店は売上側のKPIにどのように影響していますか?

事業計画及び成長可能性に関する事項

事業計画及び成長可能性に関する事項

新規顧客の獲得と既存顧客の満足度向上があり、特に前者が大きいです。

これは「オンラインでは買わないが、店舗なら見に行って買う」という層を取り込めているためです。

やはり初めて買うブランドの場合、オンラインだとサイズ感や生地感が分かりづらくハードルが上がると思います、yutoriのブランドはパーカー1点で1万円を超える商品もあり、若い世代にとっては決して安価ではありません。

そのため、店舗で実物を見て購入したいというニーズも根強くあります。

また、アパレル市場全体で見ても、EC化率は2割ほどでまだ8割の消費者が店舗で商品を購入しており、オンラインだけで売上を拡大し続けるのは難しいと考えています。

売上数千億円の企業を作っていこうとすると、オフラインでの獲得は非常に重要で、現状としては店舗6割、オンライン4割程度の比率がちょうど良いと考えています。

また、店舗はオンラインと比べて安定性が高くブランドを立体的に伝えることができるという利点もあります。

9090原宿路面店

9090原宿路面店

9090原宿路面店

9090原宿路面店

ーーー店舗の出店条件や、出店している場所について教えてください

店舗の出店は大体YリーグでいうY3のフェーズで月商2,000万円前後が一つのラインになります。立ち上がりの勢いによっては月商1,000万円程度のタイミングで出店することもあります。

これも先ほどと同じで投資リスクを抑えるための話です。さらに出店する際も基本的には100坪のような大型店ではなく、20坪程度の比較的小さめな面積で展開しています。

店舗運営のコストは主に家賃と人件費ですが、20坪でスタッフも数人であれば、投資額も大きくなりません。

また、出店場所としては、パルコやルミネなどの商業施設内が多いです。これは新規顧客を獲得するという目的もあるためです。

路面店は、そのブランドを知っている人が目的を持って行く場所ですが、商業施設であれば私たちのブランドを知らないお客様にもリーチすることができます。

ーーー出店するエリアにも優先度がありますか

地域としては、東京・名古屋・大阪の「東名阪」をメインに展開し、伸びているブランドは札幌や福岡まで広げています。

そして、特定の商業施設に大量に出店することが多いです。例えば、名古屋パルコには現在6店舗、新宿ルミネエストでは4店舗出店しています。

同じ館に複数店舗を出すことで、施設側との交渉力も強くなります。条件交渉がしやすくなるだけでなく、実績のない新規ブランドでも会社の信用で出店することができたりします。

とはいえ、出店も無尽蔵に行うわけではなく、例えば9090はオンラインで売上を作り全国各地にリアル店舗も作った完成系のようなブランドですが、流通の希少性が価値になり、メルカリ等2次流通でも高い再販価格がついています。

そのようなブランドにおいては、マス化しすぎるとファンの熱量が下がってしまうため、出店数はコントロールしています。

買収・PMI、韓国アパレルブランドとの提携戦略

ーーーM&Aにおいて、どのようなブランドをターゲットにしていますか?

ある程度の認知度があり、年商数億中後半〜数十億円程度のブランドをターゲットにしています。会社の規模が大きくなった今、この点は特に重要です。

買収戦略としてはブランドの商標だけを買うのではなく、「私たちができていないけれど、やりたいこと」を「それを生み出す人」ごと組織として中に入れることも、重要視しています。

例えば、Her lip toの買収も、レディース領域のケイパビリティ獲得という側面もあります。このように、「今後やりたいが、現在の社内のケイパビリティでは生み出せない事業・人」を保有する企業を積極的に買収し事業領域の拡張を進めています。

事業計画及び成長可能性に関する事項

事業計画及び成長可能性に関する事項

ーーーM&A後のPMIにおいて、yutoriが重視するポイントは何ですか?

赤字の会社を買って立て直そうというよりは、元々伸びている会社をさらに伸ばすことを今は重視しています。成長している黒字企業を買収し、その伸びを120%から150%に加速させるイメージです。

PMIにおけるyutoriのバリューとしては、経営管理や人事評価などハード面の仕組みが挙げられます。実際、インフルエンサーブランドを手がけていたA.Z.R社の買収時もハード面は弊社が提供し、ブランドの運営は元々のメンバーに任せています。

コンテンツそのものに魅力がなければ、どれだけ仕組みを整えても売上には繋がりません。伸びている会社のやり方は変える必要がありません。

そういった場合は仕組みの支援のみにフォーカスし、細かく口を出すことはしないようにしています。

ーーー伸びている黒字の会社に、yutoriを選んでもらうためにどのような工夫をしていますか?

私たちが買収を検討する会社は、大抵複数の買い手候補がいるため、その中から選んでもらっている状況です。

伸びている会社であっても、経営者には「しんどい」と感じるタイミングがあったりしますし、アパレルの単一ブランドでIPOをすることは難しいため、アパレル業界でM&Aは会社を伸ばしていくための有力な選択肢になります。

そのような中で私たちは単なる「売り抜け」の対象としてではなく、「一緒に、より大きなトライをする」機会を示し、優秀な経営者に選ばれるように努めています。

我々もZOZOの傘下に一度入ったのちスイングバイIPOを実現しているため、売り手となる経営者の気持ちやインセンティブ構造を解像度高く理解することができます。

さらに殆どのM&Aの場合、私たちと売り手の経営者同士が個人的な知り合いが多く、元々関係値がありお互いのことをよく知っていることも選ばれる理由になっています。

ーーー直近手がけられている韓国アパレル事業のモデルについて教えてください。

韓国アパレル事業は、私たちが韓国本国のブランドから商品を仕入れ、それを日本国内で販売するというシンプルなモデルです。

例えば「MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD」のような、既に韓国で売れていて人気の高いブランドを日本に持ってくるのが基本戦略です。

MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD原宿路面旗艦店

MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD原宿路面旗艦店

MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD原宿路面旗艦店

MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD原宿路面旗艦店

自社でゼロからブランドを作るのではなく、既に人気のあるブランドを扱うことで、成長までの時間をショートカットすることが可能です。

この事業の特徴として、既存の自社ブランドよりも在庫を先に多く持つことになります

通常、3ヶ月先までの在庫を積むところ、韓国ブランドは半期に1回のシーズン単位で半年分の仕入れをするため、仕入れ時の商品選定、量の決定はよりシビアな意思決定となります。

ーーー買収と同じく多くの会社が提携に手を挙げていそうですが、yutoriが韓国ブランドに選ばれている理由は何でしょうか?

優れたブランドを持つ韓国企業の日本のパートナーへの期待は「出店場所の見極め/確保」、「店舗組織の構築/運営」が大きいです。

オンラインであれば、MUSINSA等のECのプラットフォームもあるので日本での販売自体は彼らだけでも行えますが、オフラインでの出店拡大となると話が変わります。

どこに出せばいいのかという日本の地理関係や商業施設への理解度、また実際に出店するためのコネクションや出店後には、人を雇用して運営を維持する必要があります。これらの機能を日本でのパートナーに期待されることが多いなと感じています。

私たちは「9090」をはじめ多数のブランドの路面店を成功させてきた実績があり、「質の高い店舗を作れる」という認知を得ています。また、yutoriが勢いがあって伸びている会社と見られていたことも大きかったようです。

ーーー最後に個人投資家の方にメッセージをお願いします

個人的には「短期でホームランを狙いすぎない」「会社として打席に立ち続けられるようにする」ことを大事にしています。

短期での急激な成長を志向するとどうしてもリスクも大きくなります。毎年数倍、のようなチャレンジを数十年当て続けることは相当の不確実性を伴います。それよりは10年単位の中長期的で株を保有して安心できるような着実な成長を目指していきたいと考えています。

是非今後もよろしくお願いします。

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