ネット証券戦争激化。なぜ中核事業を売却したマネックスの株価は1.6倍になったのか

SBIの手数料無料化と中核事業を売却したマネックスのビジネスモデルの転換を考察
もやし 2024.04.14
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SBIの売買手数料無料化によって、楽天証券のIPO中止やマネックス証券へのドコモの出資等業界に地殻変動が起きています。この手数料無料化が引き起こす業界への影響と、SBIの戦略的狙い、中核事業を売却したマネックスのビジネスモデルの転換について考察していきます

SBIによる売買手数料無料化は壮絶な消耗線。日米の証券リテールビジネスの違い

直近のリテール向けの証券ビジネスでは完全に台風の目と化しているSBI。同社が引き金を引いたことで、売買手数料無料化が日本でも本格化し大きな話題を呼んでいます。一般に野村證券も含むリテール向けの証券ビジネスは、投資家が金融資産を売買する際の取引手数料から主要な収益を得ています。そのSBI自ら主要な収益を放棄することにどんな意味があるのでしょうか?

手数料無料化で先行する米国の事例を見るとRobinhoodやCharles Schwabは2010年台から既に株式や投資信託の取引手数料が無料化しており、無料化自体は重力の落ちる方向に見えます。米国で無料化が可能なのは、政策金利や市場外取引の割合が日本と大きく異なり、売買手数料への依存度が20%以下と極めて低いためです。

例えばモバイルに最適化されたスマホ証券のRobinhoodは、個人投資家から受けた注文を仲介事業者である高頻度取引業者に回し彼らからのリベートでマネタイズを行い、ネット証券大手のCharles Schwabは、顧客の待機資金を政府補償付きの住宅ローン担保証券証券等で運用し、運用収益でマネタイズを行なっています。

このように取引手数料の重要度が低いため、少々懐を痛めてもシェアを伸ばすことが長期的には合理的になりえるのです。

https://robinhood.com/us/en/

https://robinhood.com/us/en/

一方日本に目を向けると、日本国内は市場外取引の割合も10%以下とごく僅か、政策金利も米国より低いため米国同様のマネタイズは成立させるのが困難です。そのため、取引手数料の売り上げ比率が30%〜50%と米国よりも高くなっており、下位のネット証券ほどその傾向が強くなっています。売買手数料の他にも、オプション取引や信用取引に付随する収益が存在してはいるものの、無料化される取引手数料の位置付けが米国とは大きく異なります。

上記を踏まえて改めてSBIの日本市場での取引手数料無料化の意味を考えると消耗戦の色合いが強く、一気にシェアを取りに来ていると考えられます。国内ネット証券のシェアは、取引手数料が安いSBIと楽天がそれぞれ1,000万以上の口座を持ち、250万口座で3位のマネックス以下の競合を大きく引き離しています。そんな中取引手数料が無料化されれば一気にSBIにシェアが奪われると考えられます。競合各社は非常に難しい択を迫られている状況であり、以下のようなシナリオが考えられるでしょう。

一つはSBIに追随して自社も取引手数料無料化に追随する選択肢です。これは口座数のシェア自体は伸ばすor減少を食い止めることが可能かもしれませんが、大きく自社の収益性が悪化しビジネスモデル自体の転換を迫られることになります。さらに、下位証券ほど取引手数料への依存度が高く資金体力がないため、競合も含む金融機関傘下に入る事業者も出てくるでしょう。米国ですらネット証券大手のTD Ameritradeが競合であるCharles Schwabの傘下に入ることを選択しています。

二つ目は取引手数料無料化には追随せず、その他の付加価値で差別化を行っていく選択肢です。日本のネット証券は手数料の安さで対面の野村や日興証券からシェアを奪ってきた歴史があるため、実質的にある程度はシェアの低下を受け入れる形になります。ネット証券自体が差別化の難しいモデルに見えるため、余程の差別化ができないとこの択は成立しえないように思えます。

そんな苦しい選択肢を迫られた主要各社がどんな道を選んだのか見ていきます。

IPO中止に追い込まれた楽天と株価を伸ばしたマネックス

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